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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)73号 判決 1993年3月16日

英国

エス 11、9 ビー・エッチ、シェッフィールドカヴェンディッシュ ロード 32

原告

デイビッド・バーラム

訴訟代理人弁護士

松尾和子

同弁理士

大塚文昭

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

指定代理人

田中弘満

横田和男

中村友之

田辺秀三

主文

特許庁が平成1年審判第17666号事件について平成2年10月4日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年11月7日、名称を「弁」とする発明について、1980年11月7日、同年12月5日、1981年1月20日、同年10月27日のそれぞれイギリス国への特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和56年特許願第177848号)をしたが、平成1年7月4日、拒絶査定を受けたので、同年10月30日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成1年審判第17666号事件として審理した結果、平成2年10月4日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をした。

2  特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨

円形の内部横断面の開放端部(14)と導入口と送出口とを有しこれ等導入口と送出口とを流動空間(16)によって相互に連結したハウジング(12)と、前記流動空間(16)内に設置され可動ヘッド(18)に取付けられこの可動ヘッド(18)の運動によって流体の流れを調整する閉塞具(20)と、前記可動ヘッド(18)によって保持されこの可動ヘッド(18)に通る流体の流れに抵抗するよう前記開放端部(14)の内面に圧着するシール(30)とを備える弁において、システムの流体圧力から独立して前記シール(30)の周縁に均一な押圧力を加える押圧手段を設け、前記閉塞具(20)の閉塞及び開放の全範囲にわたりシステムの流体圧力によって前記押圧力を増大しないが前記可動ヘッドに通る流体の流れに対する抵抗を増大することを特徴とする弁。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

審決の理由の要点は、別添審決書写しの理由欄記載のとおりである(なお、第1引用例の発明については別紙図面2を、第2引用例の発明については別紙図面3をそれぞれ参照)。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点のうち、本願発明の要旨認定、第1引用例に審決摘示の発明が記載されていること、第2引用例の第3頁右上欄5行ないし11行及び同頁左下欄1行ないし5行に審決摘示の技術事項が記載されていること、本願発明と第1引用例の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは認めるが、その余は争う。

審決は、第1引用例及び第2引用例には本願発明におけると同様の技術的課題が開示、示唆されていないことを看過し、かつ、第2引用例の発明の技術内容を誤認して、本願発明と第1引用例の発明との相違点についての判断を誤り、その結果、本願発明の進歩性を否定したものであるから違法である。

(1)  課題について開示、示唆がないことの看過

<1> 第1引用例について

本願発明は、流体の流れを調整したり、遮断する弁において、流体の圧力に左右されず、常に完全にシールする能力を発揮し得るシールを有する弁を提供することを目的(課題)とするものであるが、第1引用例には、本願発明が解決しようとする課題について開示はもとより示唆するところもない。

第1引用例の発明は、弁を通過する流体圧よりも高い圧力で弁を弁座に押しつけなければならない従来の弁の欠点を解消するためのものである。この目的のために、同引用例の発明は、大径部9と小径部10とからなるシリンダ11内に、互いに連結した大径ピストン12と小径ピストン13とを収容し、弁を通過する流体圧よりたとえ低い圧力の流体であっても、広い面積の大径ピストン12に圧力を加えることによってピストン棒15を介して大きな力を弁に加えることができるようにしたピストン弁を提案するものである。したがって、このピストン弁は、高圧の流体を取り扱う場合でも、その圧力に抗して容易に弁を開閉できるようにした点に特徴があり、取り扱う流体の圧力に左右されないで、常に完全にシールする能力を発揮できるようにした本願発明に係る弁とは基本的に異なるのである。

第1引用例の弁において、小径ピストン13に設けられているOリングは、流体圧力によりシール面に押し付けられ、変形することによりシール能力を高めるように工夫されたシールであって、本願発明が従来技術として認識する形式のものである。本願発明は、このような形式のシールは流体圧力が高い場合には変形量が大きいために十分なシール能力を発揮するが、流体圧力が低い状態ではシール面に押し付ける力が不足するために十分な変形が得られず、漏れを生じることがあるという問題を認識し、この問題を解決することを課題としているのである。第1引用例には、本願発明が認識するこのような問題点ないし課題について開示はもとより示唆もされていないのである。

したがって、第1引用例には、本願発明と同様の課題が実質的に開示されている旨の被告の主張は理由がないものというべきである。

<2> 第2引用例について

第2引用例にも、本願発明の上記課題について開示はもとより示唆もない。

第2引用例の発明は、弁の全開状態でシールを強めるように設計された弁構造であるバックシールを備えた弁における問題点を認識して、その問題点を解決することを課題としているものである。そして、第2引用例が教示する課題解決の手段は、弁の全開状態で弁体から弁軸に加わる反作用力を利用してシールへの付勢力を強める構成である。すなわち、同引用例の発明は、バックシールを有する弁構造の場合と同様に、弁の全開状態でのシール性を高めることを意図するものである。

被告は、第2引用例には、流体の圧力に左右されずに、常に完全にシールする能力を発揮し得るパッキンを有する弁が開示されているから、本願発明と同じ課題を解決するためのパッキンが実質的に開示されていると解することができる旨主張するが、同引用例のシール構造は、弁の全開状態におけるシール力を高める構成のものであって、弁の閉状態及び中間開度の状態ではシールに押圧力は作用しないから、「常に」完全にシールする能力を有するものではなく、シール力に極端な差異が生じるものであるから、被告の上記主張は理由がない。

なお、第2引用例には可撓性補助要素について説明されているが、この可撓性補助要素は、あってもなくてもよい、というのが第2引用例の教示である。また、この可撓性補助要素によりパッキンに与えられる軸方向の圧縮力は「特定の基本的な」もの、と説明されているが、この力が、それのみで十分なシール性能を発揮させ得る程の大きさのものではないことは、第2引用例の発明の趣旨から明らかである。

このように、第2引用例は、本願発明の課題とは全く異なる課題を教示するものであり、本願発明と同様の課題については開示、示唆されていない。

(2)  技術内容の誤認

審決は、第2引用例の発明における可撓性補助要素4はパッキン6の周縁に均一な押圧力を加えるものと認定しているが、この認定は誤りである。

本願発明における「押圧手段」は、本願明細書記載の第1実施例のキャップ36であり、シール30の周縁の軸方向のほぼ全体にわたり、半径方向外向きに均一な押圧力を加えるものであるが、第2引用例には、シールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段は開示されていない。

まず、第2引用例の発明における可撓性補助要素4は、あくまで「基本的な」、しかも「軸方向」の圧縮力をパッキン6に与えるもので、この圧縮力はシール機能にとって十分なものではない。同引用例のシール装置は、弁の全開位置においてストップ部材10により誘起される機械的な反力が、軸1と負荷伝達部材3を介してパッキン6に軸方向圧縮力として作用し、この圧縮力が可撓性補助要素4の作用による「基本的な」圧縮力に重畳されて初めて十分なシール機能が達成されるものである。したがって、可撓性補助要素4を用いる構成においても、シール機能のためにパッキン6を押圧する押圧力は常時作用するものではない。

また、第2引用例によれば、パッキン6の上端部に与えられる圧縮力は軸方向であり、この軸方向の圧縮力を与えるものは、ストップ部材10と軸1、取付け部材2、負荷伝達部材3、可撓性補助要素4及び圧縮部材5に他ならない。このようにして可撓性補助要素4及び圧縮部材5を介してシールに与えられる押圧力は、上記のとおり軸方向であって、シールの全周縁に対する押圧力は考慮外のことである。

なお、被告は、審決が「可撓性補助要素が本願発明の『押圧手段』に相当する」としたのは、「可撓性補助要素4及び圧縮部材5が本願発明の『押圧手段』に相当する」との趣旨である旨主張しているが、審決をそのように理解することはできない。審決は、可撓性補助要素がパッキンに与える軸方向の圧縮をもって、本願発明における「均一な押圧力」と認定したものとみるのが相当であるが、この認定が誤りであることは、上述したところから明らかである。

以上のとおり、可撓性補助要素4は、パッキン6の軸方向端部に加えられる軸方向圧縮力の伝達を仲介するものにすぎず、第2引用例のシール構造においては、パッキン6の軸方向にも半径方向にも均一な押圧力は得られない。

(3)  以上のとおり、第1引用例及び第2引用例には、本願発明におけると同様の課題についての開示、示唆がないのであるから、本願発明の課題解決の目的で、第1引用例の弁構造に第2引用例のシール構造を適用しようと考えることは、当業者にとって容易ではなく、かつ、第2引用例の発明は、本願発明の最も重要な構成上の特徴である「シールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段」を有しないのであるから、第1引用例の弁構造に第2引用例のシール構造を適用しても本願発明の構成を得ることができない。

したがって、本願発明は第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断に誤りはない。

2(1)  第1引用例及び第2引用例に本願発明と同様の課題が開示されていることについて

<1> 第1引用例について

第1引用例の弁には、図面上、小径ピストン13の外周面に上下に2つのOリングが設けられており、シリンダ11の小径部10の内周面と接するようになっている。Oリングは、通常、約10%つぶされ圧縮されて配置され、圧縮されることによる押圧力でもって、シールすべき2つの面に対して密接した状態で配置される。2つのOリングのうち、下方に配置されたOリングには、小径ピストン13の外周面と、シリンダ11の小径部10の内周面との間に僅かな間隙があるので、そこから流動流体(流入路1から流入し、弁5で調整された流体)が侵入し、Oリング下面に流動流体の流体圧が作用する。この時、Oリングは、前述のように約10%つぶされ圧縮されており、小径ピストン13の外周面とシリンダ11の小径部10の内周面とに対し密接した状態で配置されており、更に、Oリングに作用する流動流体の流体圧による押圧力によって、Oリングが収容されている溝内で上方へ押されることによる圧縮変形とにより、小径ピストン13とシリンダ11の小径部10との間を常に完全にシール(密封)する作用をなす。他方、上方に配置されたOリングは、下方のOリングと同様に約10%つぶされ圧縮されており、小径ピストン13の外周面とシリンダ11の小径部10の内周面に対して密接した状態で配置されている。下方のOリングからの漏洩がない場合には、上方のOリングには流体圧は全く作用しないので、流動流体の流体圧に左右されることはない。下方のOリングから漏洩が生じた場合であっても、Oリングの破損等の事故でもない限り、その漏洩はごく僅かであり、上方のOリングの下面に作用する流体圧は、流動流体の流体圧と比較すると無視し得る程度の小さな流体圧に過ぎず、流動流体の圧力に左右されない圧力である。いずれの場合も、上方のOリングは、小径ピストン13の外周面とシリンダ11の小径部10の内周面に対して密接した状態で配置されており、流動流体の流体圧力に左右されずに完全に密封する作用をなすものである。

以上のとおり、第1引用例には、流動流体の圧力に左右されずに常に完全にシールする能力を発揮し得るOリングを有する弁が開示されているから、明示的な記載はないものの、本願発明と同じ課題を解決するためのシールが実質的に開示されていると解することができる。

したがって、第1引用例には、本願発明におけると同様の課題が開示、示唆されていないとする原告の主張は理由がない。

<2> 第2引用例について

第2引用例の軸1とカバー7との間にはパッキン6が設けられており、このパッキン6は、可撓性補助要素4及び圧縮部材5により特定の圧力で軸方向に圧縮されるものであり、この圧縮により、圧縮部材5の傾斜面によって軸1の外周に半径方向に押圧力を発生し、弁の内部の媒体(流体)が外方へ漏洩するのを完全に防ぐ機能を有することは明らかである。更に、弁の内部の流体がパッキン6に作用する面積は、カバー7と軸1との間の環状空間の横断面積であり、この面積はごく小さいことから、流体の圧力には左右されないものと解される。

以上のとおり、第2引用例には、流体の圧力に左右されずに、常に完全にシールする能力を発揮し得るパッキンを有する弁が開示されているから、明示的な記載はないものの、本願発明と同じ課題を解決するためのパッキンが実質的に開示されていると解することができる。

したがって、第2引用例には、本願発明におけると同様の課題が開示、示唆されていないとする原告の主張は理由がない。

(2)  第2引用例における押圧手段について

本願発明における「押圧手段」は、本願明細書記載の第1実施例のキャップ36に相当するものと解される。

ところで、第2引用例には、「第1図に示す場合では、弁体部9は、その閉鎖位置にある。これにより、可撓性補助要素4は、圧縮部材5と共に、支持部材としての負荷伝達部材3と、取付け部材2とを使用して特定の圧力でパッキン6を圧縮する。」(第3頁左下欄1行ないし5行)と記載されており、取付け部材2をねじ回して下方へ移動させると、その移動は、負荷伝達部材3、可撓性補助要素4を介して圧縮部材5へ伝えられ、圧縮部材5がパッキン6を下方へ押圧することにより、圧縮部材5の円錐状の傾斜面によって、軸線方向(縦方向)分力としての圧縮力と半径方向分力としての半径方向の押圧力を生じ、半径方向の押圧力は軸1の外周面に作用すると解される。更に、パッキン6は軸方向に圧縮されることにより、半径方向に膨らみを生じようとするが、この膨らみは、軸1の外周面及びカバー7の内周面により規制を受けるため、軸1の外周面及びカバー7の内周面の両方に押圧力を発生させることになる。よって、パッキン6に半径方向の押圧力を加えるものは、直接にパッキン6に接触している圧縮部材5の円錐状の傾斜面であるが、圧縮部材5に加えられる押圧力は、取付け部材2、負荷伝達部材3、可撓性補助要素4を介した特定の圧力、つまり可撓性補助要素4が弾性的に変形することによって調整された圧力であることから、パッキン6に半径方向の押圧力を加えるものは、主として、可撓性補助要素4及び圧縮部材5であると解される。しかして、審決においては、可撓性補助要素4及び圧縮部材5が、本願発明における「押圧手段」に相当するとの趣旨で、可撓性補助要素が本願発明における「押圧手段」に相当するとしたものである。

更に、半径方向の押圧力は、漏洩に対する抵抗を周縁方向に沿って等しくするために、周縁方向に沿って不均一とすべき特段の事情がある場合を除き、均一とすべきことは当然であり、第2引用例の発明においては、パッキン6の押圧力を周縁方向に沿って不均一とすべき合理的事情が見当たらないから、このパッキン6の押圧力も周縁方向に均一となっているものと解される。

なお、原告は、第2引用例のシール構造はパッキンが常時均一な力で押圧されるものではない旨主張するが、弁が全閉状態から全開状態に至るまでは、全開時に一層強く押圧される押圧力に比べれば弱いものの、常時、適正な一定の押圧力でパッキンは押圧されているから、原告の主張は理由がない。

また、原告は、本願発明における押圧手段は、シールの軸方向のほぼ全体にわたり均一な押圧力を加えるものであるのに対し、第2引用例の発明では、パッキン6の軸方向に均一な押圧力は加えられない旨主張するが、押圧力の軸方向分布については、本願発明の要旨とは係わりのない技術事項である。

以上のとおり、第2引用例には、「パッキン(シール)の周縁に均一な押圧力を加える押圧手段」が開示されており、同引用例の「可撓性補助要素」は本願発明の「押圧手段」に当たるものであるから、同引用例には、「パッキンの周縁に均一な押圧力を加える可撓性補助要素(押圧手段)を設け」たものが記載されているとした審決の認定に誤りはない。

(3)  以上のとおり、第1引用例及び第2引用例には、本願発明と同じ課題を解決するためのシール(パッキン)が実質的に開示されており、また、第2引用例に記載されたパッキン6は、本願発明における押圧手段と同じ機能を有する押圧手段としての可撓性補助要素と圧縮部材とを有し、十分なシール作用をするものである。したがって、第1引用例の弁のOリングに代えて、第2引用例のパッキン6を適用し、本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。

よって、本願発明は第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

2  本願発明の概要

成立に争いのない甲第2号証(本願の昭和63年8月9日付け意見書に代わる手続補正書)及び第3号証(平成元年5月12日付け手続補正書)(以下、両者を総称して「本願明細書」という。)によれば、次の事実が認められる。

本願発明は、流体の流れを調整したり、遮断する弁に関するものである。

この種の弁としては種々の形式のものが従来から使用されており、例えば英国特許明細書第1258693号に関するものがあるが、この弁では、弁体を弁座に対して動かすステムの上部から流体が漏洩し易い欠点がある。流体の漏洩を防止するため、互いに相対的に動く部分に弾性体のシールを配置している。この種のシールは、古くから使用されているもので、シールすべき面に流体によって押しつけられるものである。したがって、この種のシールのシールする能力は、弁を通過する流体の圧力によって左右される。しかし、弁を使用する流体装置の加圧流体は変化するのが普通であるから、圧力が適度に高ければ問題ないが、圧力が低くなると、シールが不完全になり漏洩が生ずることがある。また、圧力が高過ぎると過大な圧力がシールに作用して、シールを破損することもある。

したがって、使用する流体の圧力に左右されず、常に完全にシールする能力を発揮し得るシールを有する弁が待望されていた。

本願発明は、上記のような課題を解決するために、その要旨のとおりの構成を採用したものである。

そして、本願発明では、シールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段を設けたから、これにより漏洩を防止する能力がシールの周辺にわたって均一となる。また、弁の閉塞から開放までの全範囲にわたり弁に通過する流体の圧力とは無関係にシールに押圧力が加わるから、流体の圧力が増大してもシールのシール能力は影響を受けない。したがって、シールの磨耗を生ずることなく、十分なシールの能力を確保するようシールの押圧力を選択することができる。

上記のとおり、本願発明の課題は、「使用する流体の圧力に左右されず、常に完全にシールする能力を発揮できるようにした弁を提供する」ことであるが、本願明細書に「本発明では弁のシールに予め適切な圧力を加えたから、使用する流体圧力に左右されず、シールがその能力を発揮し、漏洩を防止し、」(甲第2号証の第40頁2行ないし5行)と記載されていることに照らすと、「使用する流体の圧力に左右されず」とは、システムの流体圧力とは独立した押圧手段によって、シールに予め適切な圧力を加えてシール面の密封を図っているため、使用時にシステムの流体圧力の影響を受けることがほとんどないということを意味するものであると解するのが相当である。

3  取消事由に対する判断

第1引用例に審決摘示の発明が記載されていること、第2引用例の第3頁右上欄5行ないし11行及び同頁左下欄1行ないし5行に審決摘示の技術事項が記載されていること、本願発明と第1引用例の発明との一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そこで、相違点に対する審決の判断の当否について、以下検討する。

(1)  第1引用例及び第2引用例に本願発明と同様の課題が開示、示唆されているか否かについて

<1>  第1引用例について

イ 第1引用例に本願発明と同様の課題が明示的には記載されていないことは、被告も認めて争わないところである。

成立に争いのない甲第5号証(第1引用例)によれば、第1引用例の発明は、直径の異なる2個のピストンを一体として弁本体内に形成したシリンダに嵌装し、このピストンの一側に操作圧力を作用させるようにしたピストン弁に関し、全体を小型にすることができると共に操作圧力を任意の圧力値にして弁を操作できるようにしたものであること(第1頁左欄14行ないし19行)、従来のピストン弁は、ピストン機構を弁本体の外部に取付けたものと、内部に取付けたものとがあったが、いずれのピストンも直径が単一であるため弁本体内の流体圧より高圧力をピストンに加えなければならず、あるいは弁本体の絞り効果を利用してピストン下部に加わる圧力を流入側流体圧力よりも低くして使用しなければならない欠点があったこと、特にピストン機構を弁本体の外部に取付けると大型化し、外形寸法が著しく大きくなる欠点があったこと(第1頁右欄32行ないし第2頁左欄1行)、第1引用例の発明は、このような欠点を除くことを技術的課題とするもので、ピストンを弁本体に内蔵させた故、従来のピストン内蔵型弁と同様小型化できるものであること(第2頁左欄2行ないし4行)が認められる。

ロ 第1引用例の弁の小径ピストン13には、シールとしてOリングが設けられていることは当事者間に争いがない。

成立に争いない甲第7号証(1980年9月30日朝倉書店発行「機械の事典」の55、56頁)及び第8号証(1972年2月15日理工学社発行「油圧と回路」の7-16、7-17頁)によれば、Oリングは、軸と孔との嵌合部のシールに使用されるものであって、軸又は孔壁に形成された環状溝に嵌め込まれ、使用中には軸と孔壁との間から侵入する流体の圧力に晒されて変形を生じながら、軸と孔壁の壁面に緊密に接触することによりシール機能を達成するものであることが認められる。

ところで、前記2項に認定のとおり、このOリングの作用は、本願明細書に従来技術として説明されているものと同種のものであり、本願発明は、この種のシール構造が有する問題点である、「流体圧力が高い場合には変形量が大きいために十分なシール能力を発揮するが、圧力が低い状態では、シール面に押し付ける力が不足するために、十分な変形が得られず、漏れを生じることがある」という点を解決することを課題とするものである。第1引用例の発明には、この問題点の認識はなく、当然のことながらこのことを課題としているものでもない。

被告は、第1引用例の弁における上方のOリングは、小径ピストン13の外周面とシリンダ11の小径部10の内周面に対して密接した状態で配置されており、流動流体の流体圧力に左右されずに完全に密封する作用をなすものである旨主張するが、第1引用例には、Oリングを二重に設けた趣旨についての説明はないのであるから、仮に、上方のOリングが、下方のOリングのシールが完全である場合に流動流体の流体圧力に晒されないことがあるとしても、単にそのことから、第1引用例には、本願発明と同じ課題を解決するためのシールが実質的に開示されていると認めることはできない。

<2>  第2引用例について

イ 第2引用例にも本願発明と同様の課題が明示的には記載されていないことは、被告も認めて争わないところである。

成立に争いのない甲第6号証(第2引用例)によれば、高圧又は危険な媒体に対して使用されるように設計された公知の弁では、軸まわりに配置される軸パッキンの他にバックシール機構が設けられるが、このバックシール機構のシール面は、弁体部が開口位置にあるとき、シール機能を発揮するものであること、ところが、バックシールの機能が完全であり過ぎると、軸パッキンとバックシールとの間に形成された閉鎖空間内に封入される媒体(流体)が、例えば、温度の変化により高い圧力を生じ、この圧力によりパッキンやバックシールの磨耗・腐蝕等を生じたりすること、第2引用例の発明以前の技術では、この問題点を解決するためには、軸パッキンを強く締め付けなければならないとしていたが、そうすると、弁操作に大きな力が必要となり、ひいてはパッキンの磨耗を促進することになること、第2引用例の発明は、高圧又は危険な媒体に使用するのに好適であり、しかも、公知のシール装置の上述の欠点が排除された弁軸シール装置を提供することを課題とするものであること、この課題を解決するために、第2引用例のシール構造は、弁の閉鎖状態ではシールを弱くし、弁が全開位置まで開放されたときに弁を開く機械的な反力によりパッキンを軸方向に押圧してシール作用を強めるようにしたものであることが認められる(第2頁右上欄1行ないし右下欄14行)。

このように、第2引用例に開示される同引用例の発明の課題は、本願発明の課題とは異なるものである。

ロ 被告は、第2引用例の発明において、パッキン6は可撓性補助要素4及び圧縮部材5により特定の圧力で軸方向に圧縮され、この圧縮により、圧縮部材5の傾斜面によって軸1の外周に半径方向に押圧力を発生し、弁の内部の媒体(流体)が外方へ漏洩するのを完全に防ぐ機能を有していること等を理由として、第2引用例には、本願発明と同じ課題を解決するためのパッキンが実質的に開示されていると解することができる旨主張する。

しかし、第2引用例の発明において、「可撓性補助要素4は、圧縮部材5と共に、支持部材としての負荷伝達部材3と、取付け部材2とを使用して特定の圧力でパッキン6を圧縮する。」ものであるが、上記のとおり、同引用例のシール構造の特徴は、弁の閉鎖状態と全開状態とでシール力に差を持たせ、それを上記課題の解決手段としているのであって、パッキン6は、本願発明と同じ課題を解決するためのものとして設けられているわけではないから、被告の上記主張は理由がない。

(3)  第2引用例に、シールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段が開示されているか否かについて

<1>  本願発明における「押圧手段」は、特許請求の範囲第1項に記載のとおり、「システムの流体圧力から独立してシール(30)の周縁に均一な押圧力を加える」ものである。そして、前記特許請求の範囲の記載によれば、シール30は、内部横断面が円形である開放端部14の内面に圧着するものであるから、中空円筒状又はそれに近い形状をしているものと認められ、押圧手段はこのような立体形状のシール30の周縁に均一な押圧力を加えるのである。ところで、「周縁」とは、「まわり、ふち」(広辞苑第4版1991年11月15日発行)、「もののまわり、周辺」(大辞林1988年11月3日発行)、「もののまわり、ふち」(国語大辞典昭和56年12月10日発行)の意であることが示されているが、これらの定義のみによる限り、立体としての中空円筒状のシールの周縁とは、単に外周面又は内周面のふち、すなわち外周面又は内周面の上部又は下部のへり部分を指すものとも、まわり全体、すなわち外周面又は内周面の全域を指すものとも解せられる。そこで、本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、前記2認定の本願明細書の発明の詳細な説明に記載された課題を解決するためには、押圧手段によりシール30に加えられた均一な押圧力が、そのままシール30を通してシール30が圧着する開放端部14の内面に伝えられてシール効果を奏することが必要であると認められるから、本願発明は、押圧手段はシール30が開放端部14の内面と圧着する面(外周面)と反対側(内周面)に設けられ、シール30の内周面のほぼ全域にわたって半径方向にも軸方向にも均一な押圧力を加えることをその技術的前提としているものであるということができる。更にこの点について、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例及び添付の図面を参酌して、子細に検討する。

「押圧手段」が、本願明細書記載の第1実施例におけるキャップ36に相当するものであることは当事者間に争いがなく、前掲甲第2号証によれば、本願明細書には、「ボス34にキャップ36を螺着する。シール30に掛合する円周フランジ即ちリップ38をこのキャップの頂部に設ける。シール30は中空で端部が開放した円筒状であり、この中空の部分は截頭円錐形である。シール30をボス34にほぼ同軸に配置し、キャップ36のリップ38によってピストン18の内面に圧縮する。ピストン18のボス34に掛合するキャップ36の部分の外形をシール30の傾斜内面に合致させる。従って凹所37内に設置した適当な工具によってキャップ36をボス34上に締付けた時、シール30をピストン18に圧縮すると共にシール30に半径方向外方の力も作用させる。ピストン18を円筒部14の軸線に沿って摺動させ、シール30を円筒部14の内面に圧着する。シール30に縦方向の圧縮力と半径方向外方の力とが作用することによってハウジング12とピストン18との間を非常に有効にシールする。」(第6頁3行ないし19行)、「第1図に示すように、キャップ36の外側をリップ38からボス34(『33』とあるは誤記と認める。)の軸線まで傾斜させ、シール30の圧縮と保持とを容易にする。」(第7頁11行ないし13行)、「シール30を保持するためキャップ36を使用することによって、特定の流体、温度、圧力、その他この弁の作動パラメータに従って異なる特性のシールの使用を容易にする。」(第7頁19行ないし第8頁2行)、「本発明では弁のシールに予め適切な圧力を加えたから、使用する流体圧力に左右されず、シールがその能力を発揮し、」(第40頁2行ないし5行」と記載されていることが認められる。また、同号証によれば、実施例図面第1図、第4ないし第7図に記載されているキャップ36の傾斜面は、いずれもシール30の内周面にほぼ全域にわたって設けられていることが認められる。

上記本願明細書の記載及び実施例図面によれば、キャップ36をピストン18のボス34にねじ込むことにより、キャップ36の傾斜外周面は、シール30を内周面から縦方向(軸方向)に圧縮する力と半径方向外向きに押す作用、すなわち押圧力を生じ、この作用によりシール30の外周面が円筒部(開放端部)14の内周面に押し付けられ、密封性が向上するものであること、このシール30の外周面を円筒部14の内周面に押し付ける押圧力は、キャップ36をボス34にねじ込むに従って増大すること、キャップ36の傾斜外周面は、シール30の軸方向のほぼ全長にわたって設けられていることが認められ、これらによれば、キャップ36の傾斜外周面による押圧力は、シール30の軸方向のほぼ全域にわたっているものと認めるのが相当である。そうすると、押圧手段が加える「シール(30)の周縁に均一な押圧力」とは、キャップ36の傾斜外周面に接しているシール30の内周面の軸方向全域にわたる押圧力の軸方向分布及び半径方向分布が均一であり、その結果、シール30の外周面が圧着する円筒部内周面にも均一な押圧力が加わることを意味するものであると解するのが相当である。

このように、シール30の「周縁」とは、シール30の軸方向内周面の全域を指すものと解するのが相当であり、軸方向分布については、本願発明の要旨とは係わりのない技術事項である旨の被告の主張は採用できない。

<2>  被告は、第2引用例には、「パッキン(シール)の周縁に均一な押圧力を加える押圧手段」が開示されている旨主張するので、この点について検討する。

第2引用例に、「シール装置は、可撓性補助要素を備えてもよく、該要素は、取付け部材と、前記負荷伝達部材と共に、前記パッキンに特定の基本的な軸方向圧縮を維持する如く配置される。可撓性補助要素は、前記負荷伝達部材とパッキンとの間、または負荷伝達部材と、取付け部材とのいづれかに、有利に設置可能である。」、「第1図に示す場合では、弁体部9は、その閉鎖位置にある。これにより、可撓性補助要素4は、圧縮部材5と共に、支持部材としての負荷伝達部材3と、取付け部材2とを使用して特定の圧力でパッキン6を圧縮する。」と記載されていることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、前掲甲第6号証によれば、第2引用例には「導通部をシールする如く、パッキン6と、圧縮部材5と、可撓性補助要素4と、負荷伝達部材3と、取付け部材2とが設けられる。」(第3頁右上欄16行ないし19行)と記載されていることが認められる。

上記記載及び第2引用例記載の図面第1、第2図によると、第2引用例の弁において、取付け部材2をねじ込み、下方へ移動させると、その移動は、負荷伝達部材3、可撓性補助要素4を介して圧縮部材5へ伝えられ、圧縮部材5が特定の圧力でパッキン6を下方へ押圧しているものと解される。そして、上記図面第1、第2図によれば、パッキン6の上下端部及び圧縮部材5の下端部はそれぞれ円錐状の傾斜面が形成されていることが認められから、圧縮部材5がパッキン6を下方へ押圧すると、この傾斜面によって、パッキン6の上下端部においては、軸方向分力としての圧縮力と半径方向分力としての半径方向の押圧力が生じ、この半径方向の押圧力とパッキン6が膨らむことにより生じたシール力とが軸1の外周面に作用してシール作用が得られるものと解される。

しかしながら、上記図面第1、第2図によれば、圧縮部材5及びカバー7の傾斜面がそれぞれパッキン6の上下端部の傾斜面に接している部分に対応するパッキン6の内周面の長さは、パッキン6全体の長さのごく一部であることが認められること、第2引用例には半径方向の押圧力について何ら記載されていないこと、及び圧縮部材5の傾斜面の軸方向に対する傾斜角度は、本願発明におけるキャップ36の傾斜面に比べて著しく大きいから、軸方向の圧縮力に比べて半径方向の分力は小さいと考えられることを総合すると、第2引用例の発明においてパッキン6に作用する力は、基本的には軸方向の圧縮力であると解される。

そして、パッキン6の傾斜面を備えていない部分(中央部分)においては、圧縮部材5より生じた半径方向の押圧力はほとんど作用しないことは技術的に明らかである。したがって、第2引用例のシール構造においては、パッキン6の内周面を軸1の外周面に押し付ける押圧力の軸方向分布は均一とはならないものと解するのが相当である。

以上のとおりであって、、第2引用例の発明においては、「シールの周縁に均一な押圧力」は加えられないのであるから、審決は、可撓性補助要素4及び圧縮部材5をもって、本願発明における「押圧手段」に相当すると認定したものと善解しても、この認定は誤っているものといわざるを得ない。

(3)  以上のとおり、第1引用例及び第2引用例には、本願発明と同様の課題についての開示、示唆はなく、また、第2引用例には、「シールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段」が開示されていないのであるから、本願発明は、第1引用例及び第2引用例の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。そして、この判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。

4  よって、審決の違法を理由として、その取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

平成1年審判第17666号

審決

英国エス7 1ピービー シェッフィールド ミードー バンク アベニュー19

請求人 デイビッド・バーラム

東京都千代田区霞が関3-2-4 霞山ビル7階

代理人弁理士 杉村暁秀

東京都千代田区霞が関3-2-4 霞山ビル7階

代理人弁理士 杉村興作

昭和56年 特許願 第177848号「弁」拒絶査定に対する審判事件(昭和57年 9月24日出願公開、特開昭57-154578)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和56年11月7日(優先権主張1980年11月7日、1980年12月5日、1981年1月20日、1981年10月27日、各々英国)の出願であつて、その発明の要旨は、昭和63年8月9日付け、平成元年5月12日付け各手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの、

「円形の内部横断面の開放端部(14)と導入口と送出口とを有しこれ等導入口と送出口とを流動空間(16)によつて相互に連結したハウジング(12)と、前記流動空間(16)内に設置され可動ヘツド(18)に取付けられこの可動ヘツド(18)の運動によつて流体の流れを調整する閉塞具(20)と、前記可動ヘツド(18)によつて保持されこの可動ヘツド(18)に通る流体の流れに抵抗するよう前記開放端部(14)の内面に圧着するシール(30)とを備える弁において、システムの流体圧力から独立して前記シール(30)の周縁に均一な押圧力を加える押圧手段を設け、前記閉塞具(20)の閉塞及び開放の全範囲にわたりシステムの流体圧力によつて前記押圧力を増大しないが前記可動ヘツドに通る流体の流れに対する抵抗を増大することを特徴とする弁。にあるものと認める。

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、実公昭42-21909号公報(以下、「第1引用例」という。)には、「円形の内部横断面のシリンダーと流入路と流出路とを有しこれ等流入路と流出路とを流動空間によつて相互に連結した弁本体と、前記流動空間内に設置された小径ピストンに取付けられこの小径ピストンの運動によつて流体の流れを調整する弁と、前記小径ピストンによつて保持されこの小径ピストンに通る流体の流れに抵抗するよう前記シリンダーの小径部の内面に圧着するシールとを備える弁」に関する発明が記載されていると認められる。また、同じく引用された、本願の優先権主張の日前の昭和55年(1980年)4月28日に頒布された特開昭55-57785号公報(以下、「第2引用例」という。)には、<1>シール装置は、可撓性補助要素を備えてもよく、該要素は、取付け部材と、前記負荷伝達部材と共に、前記パツキンに特定の基本的な軸方向圧縮を維持する如く配置される。可撓性補助要素は、前記負荷伝達部材とパツキンとの間、または負荷伝達部材と、取付け部材との間のいづれかに、有利に設置可能である。(第3頁右上欄第5行目~第11行目)、<2>第1図に示す場合では、弁体部9は、その閉鎖位置にある。これにより、可撓性補助要素4は、圧縮部材5と共に、支持部材としての負荷伝達部材3と、取付け部材2とを使用して特定の圧力でパツキン6を圧縮する。(第3頁左下欄第1行目~第5行目)が記載されている。前記<1>、<2>の記載および図面(第4頁Fig1、Fig2)の記載から第2引用例には、「導入口と送出口とを流動空間によつて相互に連結したハウジングと、前記流動空間内に挿入された軸の運動によつて流体の流れを調整する弁体部と、前記軸に通る流体の流れに抵抗するよう前記軸に圧着するパツキンとを備える弁において、パツキンのシール能力を高めるためシステムの流体圧力から独立して前記パツキンの周縁に均一な押圧力を加える可撓性補助要素を設け、前記弁体部の閉塞及び開放の全範囲にわたりシステムの流体圧力によつて前記押圧力を増大しないが前記軸に通る流体の流れに対する抵抗を増大させる弁」に関する発明が記載されていると認められる。

本願発明と第1引用例に記載された発明とを対比すると、本願発明の「開放端部」「導入口」「送出口」「ハウジング」「可動ヘツド」「閉塞具」はそれぞれ第1引用例記載のものの「シリンダー」「流入路」「流出路」「弁本体」「小径ピストン」「弁」に相当するから、両者は、「円形の内部横断面の開放端部と導入口と送出口とを有しこれ等導入口と送出口とを流動空間によつて相互に連結したハウジングと、前記流動空間内に設置された可動ヘツドに取付けられこの可動ヘツドの運動によつて流体の流れを調整する閉塞具と、前記可動ヘツドによつて保持されこの可動ヘツドに通る流体の流れに抵抗するよう前記開放端部の内面に圧着するシールとを備える弁」の点で一致しており、次の点で相違している。

相違点:本願発明では、「(シールのシール能力を高めるため)システムの流体圧力から独立してシール(30)の周縁に均一な押圧力を加える押圧手段を設け、閉塞具(20)の閉塞及び開放の全範囲にわたりシステムの流体圧力によつて前記押圧力を増大しないが可動ヘツドに通る流体の流れに対する抵抗を増大するようにした」のに対して、第1引用例記載の発明は、「シールは可動ヘツドによつて保持されているのみでシールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段を有していない」点で相違している。

上記相違点について検討するに、導入口と送出口とを流動空間によつて相互に連結したハウジングと、前記流動空間内に挿入された軸(本願発明の可動ヘツドに相当し、以下括弧内は本願発明のものを示す。)の運動によつて流体の流れを調整する弁体部(閉塞具)と、前記軸に通る流体の流れに抵抗するよう前記軸に圧着するパツキンとを備える弁において、パツキン(シール)のシール能力を高めるためシステムの流体圧力から独立してパツキンの周縁に均一な押圧力を加える可撓性補助要素(押圧手段)を設け、弁体部の閉塞及び開放の全範囲にわたりシステムの流体圧力によつて前記押圧力を増大しないが前記軸に通る流体の流れに対する抵抗を増大させることは第2引用例に記載されているから、第1引用例に記載された発明におけるシールに代えて本願発明のようにシステムの流体圧から独立してシールの周縁に均一な押圧力を加える押圧手段を設け、閉塞具の閉塞及び開放の全範囲にわたりシステムの流体圧によつて前記押圧力を増大しないが可動ヘツドに通る流体の流れに対する抵抗を増大するようにすることは第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易になすことができたものである。

そして、本願発明の効果は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明から当業者であれば予想できる程度のものである。

したがつて、本願発明は第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よつて、結論のとおり審決する。

平成2年10月4日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙図面1

<省略>

図面2

<省略>

図面3

<省略>

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